一日江戸人

 杉浦日向子「一日江戸人」読了。新潮文庫。

 杉浦さん、いや、「杉浦日向子先生」という方がとおりがよいでしょう。NHK でやっていたコメディお江戸でござるの後半に、前半の演劇に出てきた事柄に対し、実際の江戸時代の風俗や習慣から解説やツッコミを入れるコーナーがあって、そこで解説役というか先生をしていた方。いつも和服をきちっと着て、ニコニコしながら、あそこは良かった、これはありえないというような話をする。

 番組前半の劇はいつも同じような調子であったのもあって次第に飽きてしまったのですが、後半だけは必ず見ていました。その頃は歴史物はほとんど読んでいませんでしたが、このコーナーは毎回楽しくテレビにかぶりついていました。

 この本をよんでから、このごろはどうしたのかなと思って調べてみて目を疑ったのですが、2005年に病気でお亡くなりになったとのこと。テレビの人ではあったものの、子供の頃から馴染みのあった方だったので、かなりショックでした。遅まきながら、ご冥福をお祈りします。

 さて、一日江戸人。

 江戸のさまざまな面に視点を向け、風俗や定められたルール、人々の心意気などを解説する。大奥の生活あり、春画あり、夏休みに大根やら豆腐のレシピあり。現代生活を風刺するような、笑い飛ばすような記述もスパイシーで香ばしい。

 杉浦日向子先生は漫画家としても活躍されていたそうで、自筆のイラストが大量に配置されています。これがもし、文章だけだったり、輪郭もよくわからないような写真で解説されていたとしたら、これほど楽しめる読み物にはならなかったでしょう。

 絵には漫画特有のユーモラスがありながらも小さな字なんかが1つ1つおもしろい。もちろん内容は説明文と絵なのですが、面白おかしく、そう、日向子先生が NHK でニコニコしながらお話ししてくれたときのような感じです。

 江戸とその時代を知るという意味でもなかなか有意義ですが、その中でも気楽さやおおらかさを歌うイントネーションみたいのもあって、読み終わった後にはさっぱりとした心持ちになりました。

 大きくなってしまった東京ですが、この本を読んでから「江戸」として眺めるとまた面白いかもしれませんね。

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